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解説シリーズ【ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番op.18】

1. ラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 Op.18」


1. 作曲の背景

作曲時期とラフマニノフの状況

セルゲイ・ラフマニノフ(Sergei Rachmaninov, 1873–1943)は、20代後半に迎えた精神的スランプからの復活をこのピアノ協奏曲第2番で見事に果たしました。1897年に初演された交響曲第1番が酷評され、大きなショックを受けたラフマニノフは作曲意欲を失いましたが、1900年頃から心理療法士ニコライ・ダーリ(Nikolai Dahl)による催眠療法を受け、その効果もあって再び筆を取ったのです。この協奏曲は1900年から1901年にかけて作曲され、最終的な完成は1901年です。


初演と献呈

本作は1901年11月9日にモスクワで初演されました。ピアノ独奏をラフマニノフ自身が務め、アレクサンドル・ジロティ(Alexander Siloti)の指揮のもと、大成功を収めています。ラフマニノフはこの作品を自分に自信を取り戻させてくれたダーリ医師に献呈しました。


2. 楽曲の構成と特徴

本協奏曲は3楽章構成で、演奏時間は約30〜35分程度。ロマン派後期の伝統を継承しながら、ラフマニノフ特有の美しい旋律美と重厚な和声が随所に現れます。


1. 第1楽章: Moderato(ハ短調)

形式: ソナタ形式

導入部: 鐘の響きを思わせる和音の連打(ピアノの左手)が印象的なイントロを繰り返した後、荘重に第1主題が提示されます。

音楽的特徴:

• 力強くドラマティックな性格と甘美な叙情性のバランス。

• ピアノとオーケストラの濃厚な対話と、ラフマニノフらしい流麗なメロディ。

展開部: 豪快な盛り上がりの中にも優美なパッセージが入り混じり、作曲者自身のピアニズムが存分に発揮されます。


2. 第2楽章: Adagio sostenuto(変ホ長調)

形式: 三部形式(自由な変則的構成も指摘される)

音楽的特徴:

• 弦楽器の穏やかなアルペッジョの上に、ピアノが静かで美しい主題を奏でる情緒豊かな緩徐楽章。

• 中間部ではエネルギッシュなパッセージと和声変化が挟まれ、やや緊張感を帯びますが、再び穏やかな旋律へと回帰します。

• 全体を通じて豊潤なロマン性を感じさせる書法が特徴的です。


3. 第3楽章: Allegro scherzando(ハ短調→ハ長調)

形式: ソナタ形式を基調としつつ、ロンド的要素も含む

音楽的特徴:

• 力強いリズムで始まり、ピアノ独奏が華やかなパッセージを展開。

• 途中で登場するリリカルな副主題が特に有名で、甘い叙情をたたえています。

• 終結に向けて調性がハ長調へ転じ、壮大なクライマックスを築きながら華々しく終わります。


3. 楽曲の意義と評価

ラフマニノフの代表作

精神的危機を乗り越えて完成したこの協奏曲は、その甘美で胸を打つメロディとスケールの大きなピアノパートにより、ラフマニノフの名声を一気に高めました。

ピアニストにとっての難易度と魅力

大胆なオクターヴ奏法や厚みのある和音進行など、高度なピアノ技術を要しながらも演奏効果が非常に高く、多くの名ピアニストがこぞってレパートリーに加えています。

ロマン派後期の典型

ベートーヴェンやショパンなどの伝統を引き継ぎながら、19世紀末〜20世紀初頭のロシア音楽の特徴(重厚で官能的な和声感)を見事に表現した傑作です。



 
 
 

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