
L'instant(ランスタン)
2019年ジュネーヴ国際コンクール優勝作品「ランスタン」
はじめまして。作曲家の高木日向子です。私は「呼吸を感じられる音楽」をテーマに、聴いてくださる方々、演奏者、そして作曲家が「瞬間を共有できる」作品づくりを大切にしてきました。これまでの歩みの中で、国内外の多くの演奏家とご縁をいただき、幸運にも作品がヨーロッパ、アメリカ、アジア各地で演奏されてきました。その中でも特に思い入れが深いのが、2019年ジュネーブ国際音楽コンクール作曲部門で第1位をいただいたオーボエ協奏曲《L’instant(ランスタン)》です。今回、この作品を日本で再び演奏するという長年の夢を実現するために、このプロジェクトを立ち上げました。

プロジェクトの概要
このたび、私のオーボエ協奏曲《L’instant(ランスタン)》(「瞬間」)を中心とした演奏会を企画する運びとなりました。本作は、2019年ジュネーブ国際音楽コンクール作曲部門で第1位を受賞し、2020年12月には大阪音楽大学第63回定期演奏会にて日本初演されました。それから5年——この間、作品を「演奏し続けること」の難しさとその意義の大きさを、改めて深く実感しています。音楽は、演奏者と聴き手が「瞬間」を共有することで、はじめて息が吹き込まれる芸術です。しかし、現代音楽の世界では初演後に再演の機会を得ることは極めて難しいのが現実です。《L’instant(ランスタン)》は、私自身の創作の中でも特に思い入れの深い作品であり、長らく再演の場を得たいと願い続けてきました。今回は、現代音楽のスペシャリストとして国際的に活躍するオーボエ奏者、ビセンテ・モロンタ氏をソリストとして迎えます。これまで数多くの新作を取り上げてきたビセンテ氏が、この作品に新たな魅力を吹き込んでくださることでしょう。時間をかけて作品と向き合い、演奏を重ねる中で、その魅力が深まっていく——それは、クラシック音楽の名曲たちが辿ってきた道でもあります。《L’instant(ランスタン)》もまた、そうした“音楽としての地層”を形づくる一歩を踏み出すことができたら……。そんな願いを込めて、このプロジェクトを立ち上げました。

作品について
オーボエのためのコンチェルト《L’instant》は、フランス語で「瞬間」を意味します。この作品を作曲した当時の私は、科学が信奉される今、およそ2500年前に生きた古代ギリシャ哲学者たちの自然観を、音楽で再現することに興味を持っていました。そんな時に出会ったのが高島野十郎の絵画作品「蠟燭」です。蝋燭が燃える霊妙な瞬間は、万物の原理を「火」としたヘラクレイトス(540–480 BCE)の思想を想起させ、私の音楽的興味と、驚くほどぴったり重なりました。時間芸術である音楽で、高島が描いた「蝋燭」のような超感覚的な瞬間を生み出すにはどうすればよいか。この問いを、現代の音楽語法を用いて探求しました。(高木日向子)

ヴィセンテ・モロンタ
ベネズエラ出身の演奏家・研究者であり、国際的に活躍する長年のキャリアを持つ音楽家です。
オーボエをリカルド・リベイロ(カラカス)、ディートヘルム・ヨナス(リューベック)、エマニュエル・アビュール(バーゼル)に師事。ベネズエラ中央大学で音楽学を学び、スイス・バーゼルのバーゼル音楽アカデミーおよびドイツ・フランクフルトの現代音楽アンサンブル・アカデミー(IEMA)で現代音楽を専門的に学びました。
ベネズエラ・シモン・ボリバル交響楽団のメンバーとして12年以上在籍し、アジア、南北アメリカ、ヨーロッパの主要なコンサートホールで演奏。ザルツブルク音楽祭、ルツェルン音楽祭、ボンのベートーヴェン音楽祭、BBCプロムス、エディンバラ音楽祭などの著名な国際音楽祭にも多数参加しています。
ドイツ・グラモフォン、フランス国営ラジオ、スイス放送協会(SRF)、WDR、SWR、BR、IRCAM、Art Musicなどの放送・レーベルにて録音も行っています。
これまでに、クラウディオ・アバド、サイモン・ラトル、ハインツ・ホリガー、クシシュトフ・ペンデレツキ、エサ=ペッカ・サロネン、グスターボ・ドゥダメル、ブルーノ・マントヴァーニ、ラファエル・パヤーレ、ルーカス・フィス、ジョナサン・ストックハマーなど多くの著名な指揮者と共演。
また、以下のような多数の作曲家たちが彼のために作品を作曲・献呈しています:ステファノ・ジェルヴァゾーニ、ミシェル・ロート、マイク・スヴォボダ、高木日向子、ペドロ・ガルシア=ベラスケス、ジョアン・マグラネ=フィゲラ、アレックス・ナンテ、フアン・フランシスコ・サンス、アドリアン・スアレス、ミゲル・ファリアス、アルトゥーロ・フエンテス、ヘルガ・アリアス、トビアス・クレブス、アンナ・ソワ、クォン・ギッピ、ミルトゥル・エスカローナ=ミハレス、ビクトル・イバラ、イサンドロ・オヘダ=ガルシア、ルイス・エルネスト・トーレス、ダビド・エルナンデス=ラモス、ノルマン・ゴメス=バジェステル、ロドリゴ・リマ、カルロス・アルセ、ユーヘン・チェン、ほか多数。
現代音楽のソリストやアンサンブル奏者としても幅広く活動しており、以下の音楽祭に参加しています:マニフェスト(パリ)、ミラノ・ムジカ、ルツェルン音楽祭、ヴィッテン現代室内楽祭、インパルス(グラーツ)、エンセムス(バレンシア)、クランクシュプーレン(インスブルック)、CEPROMUSIC(メキシコ)、CCMC(ボゴタ)、テグ国際現代音楽祭(韓国)、ラテンアメリカ音楽祭(カラカス)、タイム・オブ・ミュージック(フィンランド)、モントリオール現代音楽ラボ、ソネムス(サラエボ)、Re:Suena(カラカス)、ガウデアムス音楽週間(ユトレヒト)、ツァイト・レーメ(バーゼル)、FºLab(フランクフルト)、クランクツァイト・ベゲグング(ミュンスター)、ムジカ・オクパ(エクアドル)、アタッカ・フェスティバル(バーゼル)など。
2001年にはカラカスの「シモン・ボリバル」音楽院よりベネズエラ国家オーボエ賞を、2015年にはCOFCAM(中米・メキシコ オーボエ&ファゴット会議)にてマリゴー第1賞を受賞。バーゼル市、バーゼル音楽アカデミー、ニカティ・ド・リュゼ財団、ドライクラング財団、メリンダ・エステルハージ財団、リタ・ツィンマーマン財団、ヨーゼフ&ハリエッタ・クリプス財団、イレーヌ・デネレアズ財団、プロ・ヘルヴェティア、ネスレ芸術財団、スイサ財団、スタンリー・トーマス・ジョンソン財団などからも助成を受けています。
これまでに共演・所属した団体には、フランクフルト歌劇場管弦楽団、アンサンブル・モデルン、アンサンブル・リシェルシェ、ハンブルガー・カメラータ、アンサンブル・フェニックス、アンサンブル・プロトン、テンポ・コネックス、メキシコ国立交響楽団、ハリスコ・フィルハーモニー管弦楽団などがあります。
彼はまた、ベネズエラ国内の若手演奏家支援と多様な地域での音楽普及を目的とした教育・芸術・社会プロジェクト「El Oboe y sus Laberintos」の共同創設者でもあります。
教育者としても高く評価されており、以下の教育機関で客員教授として招かれています:アルゼンチン国立芸術大学(ブエノスアイレス)、チリ・カトリック大学(サンティアゴ)、メキシコ国立自治大学(CDMX)、コロンビア国立大学(ボゴタ)、ベルン芸術大学、バレアレス諸島高等音楽院(マジョルカ)、カスティーリャ・ラ・マンチャ高等音楽院(アルバセテ)、ウルタード大学(サンティアゴ・デ・チリ)。
2017年のアテネおよび2018年のバーミンガム・ロンドンにて開催された「SEYO(エル・システマ・ヨーロッパ)」では、オーボエセクションの育成を担当しました。
現在は、テレサ・カレーニョ劇場の現代音楽部門ディレクターおよびエル・システマ国立オーボエ学校の教授を務めるほか、イベロアメリカ・アンサンブル、オーボエス・ミグランテス・デュオ、キュマ・デュオの共同創設者としても活動。2021年からはソロプロジェクト「Songs of Reeds」を展開しています。
また、国や地域を問わず、コミュニティや文化・教育施設で行うプロジェクト「1, 2, 3… OÍDO!(耳をすませて)」を通じて、現代音楽の世界をより多くの人々に届ける取り組みも行っています。

清永あや
神戸市出身。第 74 回日本音楽コンクール第 2 位、08 年 J&A.Beare Solo Bach Competition第 1 位・聴衆賞、第 10 回松方ホール音楽賞大賞、第 23 回青山音楽賞新人賞、第 23 回坂井時忠音楽賞など受賞多数。London Northern Music Festival、Yellow Barn Music Festival、IMS Prussia Cove、Noon to Midnight、東京春音楽祭、ヴィオラスペースなどの音楽祭に招待・出演。 NHK-FM 名曲リサイタル、リサイタル・ノヴァ出演。 リサイタルを米国、英国、日本の各地にて開催。米国ではウォルト・ディズニーホール、カーネギーホールなどの主要会場にて演奏している。ナポリ音楽院からの招待でデュオリサイタルを開催。2019 年ロサンゼルスにて世界的画家 Aerosyn-Lex との即興演奏コラボレーションを行う。2022 年には高木日向子より献呈された「Lost in_____III」の初演を務めた。ソリストとして、これまでに東京交響楽団、東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団、日本センチュリー交響楽団、仙台フィルハーモニー管弦楽団、神戸市室内合奏団、兵庫芸術文化センター管弦楽団、大阪交響楽団、関西フィルハーモニー管弦楽団、イ・ポメリッジ・ムジカーリ、ディナ・ポイント交響楽団など、国内外の主要オーケストラと多数共演。ロームミュージックファンデーション奨学金を受け、英国王立音楽院(RAM)にて学び、相愛大学音楽学部、東京藝術大学大学院修士課程を首席卒業、アカンサス賞を受賞。2015 年に渡米。文化庁長期新進芸術家海外研修員および日米芸術家交換計画生として 2017 年に南カリフォルニア大学(USC)を卒業。これまで明治安田生命、青山音楽財団、野村財団、 WilliamW. Kehr Endowed Memorial より支援を受けた。これまで、 工藤千博、小栗まち絵、宗倫匡、ジェルジ・パウク、玉井菜採、川田知子、五島みどりに師事。現在米国在住、サンフランシスコとロサンゼルスを拠点に、ソロ・室内楽・オーケストラと多岐にわたり日米にて活動。 San Francisco Opera Orchestra 団員。 全日本学生音楽コンクール審査員。指導者としても精力的に活動している。

浅野亮介
神戸大学国際文化学部を経て同大学院博士課程前期修了。大学院では美学理論、作曲技法を学び、シェーンベルクを中心とした 20 世紀初頭のドイツ音楽を軸に、古典派からロマン派まで幅広く研究対象にする。最終論文のテーマはシェーンベルクのオラトリオ研究。大学卒業と同時に自らのオーケストラ「アンサンブル・フリー」を、2014 年には東京に「アンサンブル・フリーEAST」を立ち上げ、数々の演奏会を主宰する。2022 年に有望な若手プロ奏者および音楽を専門に学ぶ学生から構成される「アンサンブル・フリーJAPAN」を設立し、従来のクラシック音楽から最新の現代音楽まで、国内外に幅広く発信するために意欲的な演奏会を企画している。2011-2022 年まで大阪府立大学交響楽団、2023-2024 年まで大阪公立大学交響楽団のオーケストラ・トレーナーを務める。高木日向子氏のオーケストラ作品は「And now look!」を2020年に世界初演、2021年に再演、2023年に「メゾソプラノと弦楽のための『生い立つ日に』」を世界初演している。
