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ショパン作曲「バラード第1番」。ミツキェヴィチの叙事詩《コンラット・ヴァレンロッド》との関連性。

9月28日
読了時間: 6分

音大生やピアニストにとって欠かせないレパートリーであるショパンの「4つのバラード」。インスピレーションの源泉となった叙事詩がそれぞれありますが、案外詳細は知らないまま...という方も多いのではないでしょうか。

私もざっくりとした概要しか知らなかったので、今回は調べてまとめてみました。

直接的な演奏法に役立つわけではないでしょうが、「戦い」や「迷い」「葛藤」のような感情も、どういった性質、シチュエーションのものであるか、文章を通じて理解すると見える世界が変わってくるはずです。


まず、史料上の結論

ショパンの《バラード第1番 ト短調 作品23》に結びつけられてきた叙事詩は、アダム・ミツキェヴィチの『コンラット・ヴァレンロット』(Konrad Wallenrod、1828年)です。ただし、ショパンが「第1番はこの作品を基に書いた」と明言した記録は見つかっていません。

根拠となるのは、シューマンが1841年に記した回想です。1836年にショパンから、ミツキェヴィチの「いくつかの詩」に触発されて「バラードたち」を書いたと聞いた、というものです。詩の題名も、どの詩がどの曲に対応するかも書かれていません。音楽学者ジョナサン・ベルマンも、第1番と『コンラット・ヴァレンロット』を直接結ぶ同時代の文書はないと確認しています。したがって「有力な解釈の対象」ではありますが、「確定した原作」ではありません。



叙事詩は、どんな物語か

正式には「リトアニア人とプロイセン人の故事による歴史物語」という副題を持つ、六部からなる長い物語詩です。舞台は中世のリトアニアとドイツ騎士団の抗争。ミツキェヴィチはこの歴史的な舞台を使い、当時、外国の支配下にあったポーランドの読者にも切実な問いを投げかけました。圧倒的に強い敵に対し、祖国を救うためなら欺瞞や裏切りを用いてよいのか、という問いです。実在の歴史を材料にしていますが、主人公の秘密の経歴をそのまま史実として読む作品ではありません。wolnelektury.pl

主人公の本名はヴァルター・アルフ。幼いころ騎士団に連れ去られ、その内部で育ちます。しかし、そばにいるリトアニアの老吟遊詩人ハルバンが、故郷の記憶と騎士団への抵抗の意思を彼に伝え続けます。ヴァルターはリトアニア側へ戻り、領主の娘アルドナと愛し合います。やがて祖国を守るために彼女との生活を捨て、別人「コンラット・ヴァレンロット」の身分で騎士団へ入り込み、ついにはその総長になります。敵軍を内側から敗北へ導く計画です。

原詩の進み方は、最初からこの経歴を順に説明する形ではありません。すでに騎士団で高い地位にある、陰のある人物としてコンラットを登場させ、歌や会話を通して過去と正体を明かしていきます。


主な出来事

第Ⅰ部「選出」 騎士団が新しい総長を選ぶ。優れた騎士と目されるコンラットには、説明のつかない暗さがある。

第Ⅱ部 祈りや歌、塔にこもる女性の声が交錯し、コンラットが総長に選ばれる。ハルバンの歌には、離れ離れになった恋人と故郷の記憶が重なる。

第Ⅲ部 総長となったコンラットは塔の女性と言葉を交わす。彼女はアルドナで、二人は近くにいながら共に暮らせない。

第Ⅳ部「宴」 ハルバンの語りによって、ヴァルターの生い立ちと正体が読者に明らかになる。酔ったコンラット自身も、宴席で「アルプハラ」という物語を歌う。

第Ⅴ部「戦争」 コンラットが率いる騎士団のリトアニア遠征は壊滅的な結果に終わる。騎士団は彼の行動を疑い始める。

第Ⅵ部「別れ」 目的を果たしたコンラットはアルドナに共に逃げようと訴えるが、彼女は塔を出ない誓いを守る。正体を暴かれた彼は毒を飲む。

この六部の流れは原詩で確認できます。とりわけ第Ⅳ部の長い回想が、それまでの謎を読み替える鍵です。


物語の悲劇は「勝っても元には戻れない」こと

コンラットは祖国への復讐を遂げます。しかし、作戦に費やした年月と偽りの生活は、アルドナと過ごした時間を取り戻してはくれません。彼女は塔から出ないと誓っており、最後に彼が思い描く静かな二人の暮らしを拒みます。公的な目的の達成と、私的な幸福の喪失が同時に起こるところに、この作品の痛みがあります。

結末にも重要な余白があります。コンラットの死に続いて塔から絶叫が聞こえますが、詩はアルドナにその後何が起きたかを明記しません。最後には、彼女の運命の歌を聴き手が心の中で歌い継ぐよう促します。「アルドナもその場で自殺した」と筋書きを確定させる説明は、原文より踏み込んでいます。


「第1番の原作は第Ⅳ部の最後」という説明は何か

第Ⅳ部には、長編の中に挿入された、文字どおり「バラード」と題された歌『アルプハラ』があります。スペインで敗れたムーア人の王アルマンソルが降伏を装い、迎え入れた敵に抱擁と接吻で疫病をうつす話です。コンラットが宴席で歌うこの挿話は、弱者が正面から勝てない敵に、身を犠牲にした策略で報いるという本編の主題を、別の土地の話として映しています。なお、これはスペインを舞台にした作中の歌**であり、コンラット本人の生涯を描く場面ではありません。wolnelektury.pl

「ショパンの第1番は、特にこの『アルプハラ』から生まれた」という説明は、後世の演奏解説で広まりました。批評家ジェームズ・ヒュネカーは1900年に第1番と『コンラット・ヴァレンロット』を結びつけ、ピアニストのコルトーは1929年の楽譜解説で、さらに第Ⅳ部の挿話を指し示しました。そこからショパン自身の証言へと遡れるわけではありません。


では、曲を聴くときに何を手掛かりにできるか

詩の一場面を一小節ずつ当てはめるより、「語りによって過去の意味が変わる」「愛情と使命が両立しない」「結末が勝利だけでは閉じない」という物語の作りを念頭に置くと、第1番との接点を考えやすいと思います。


研究者間でも判断は割れています。ベルマンは、原詩の劇的な局面と第1番の音楽的な語り方に注目すべき符合があると論じます。一方、ショパン研究者ミェチスワフ・トマシェフスキは、『コンラット・ヴァレンロット』の筋をこの曲へ具体的に当てはめる試みには否定的です。両者が共有している重要な点は、対応を確証するショパンの標題や説明がないことです。Oxford Academic


実際に読むための資料

日本語で全文を読むなら、久山宏一訳『コンラット・ヴァレンロット』〈ポーランド文学古典叢書第4巻〉があります。六部の本文に加え、訳者の解説と付録を収めています。原文はWolne Lekturyのポーランド語全文で読めます。曲との関係に絞って先に読むなら、第Ⅲ部の塔での対話→第Ⅳ部のハルバンの語りと『アルプハラ』→第Ⅵ部の別れという順が有益です。未知谷

私の見立てでは、この詩が第1番に与える最も豊かな手掛かりは、「コーダはどの戦闘か」という場面探しよりも、人を動かす歌や記憶があり、使命を果たしてなお取り返せないものが残るという物語の感触です。ただし、それは原詩と音楽を突き合わせた解釈であって、確認された作曲意図ではありません。

 
 
 

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