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解説シリーズ【ブラームス:チェロ・ソナタ第2番op.99】

執筆者の写真: 乾 将万(Inui Masakazu)乾 将万(Inui Masakazu)

1. 作曲背景


作曲時期と場所

1886年、ブラームスが53歳の夏にスイスの避暑地トゥーンで完成。

• 同じ夏にヴァイオリンソナタ第2番、ピアノ三重奏曲第3番も作曲され、彼の創作意欲が高まっていた時期の作品。


歴史的背景

• このソナタは、ブラームスが「円熟期」に書いた作品であり、彼の作曲技法が最も発展した段階にあります。

• 初期のチェロソナタ第1番が内省的で抒情的だったのに対し、第2番は劇的かつ雄大で、チェロとピアノの表現力を最大限に引き出しています。


献呈

• 献呈先は特に明記されていませんが、ブラームスの多くの室内楽作品同様、プロフェッショナルな演奏家たちのために書かれています。


2. 楽曲構成と分析


全体像

• このソナタは4楽章形式で構成されており、伝統的なクラシカルな枠組みを尊重しています。

• チェロとピアノの対等な役割が際立ち、オーケストラ的な響きが随所に感じられます。


2. 楽曲構成と分析


全体像

• このソナタは4楽章形式で構成されており、伝統的なクラシカルな枠組みを尊重しています。

• チェロとピアノの対等な役割が際立ち、オーケストラ的な響きが随所に感じられます。


第1楽章:Allegro vivace

調性:ヘ長調

形式:ソナタ形式


提示部

第1主題(小節1~8):チェロがエネルギッシュな動機を提示。跳躍音程と大胆なアルペジオが特徴。

• ヘ長調の強固な和声構造に支えられた主題は、楽曲全体の活力を象徴します。

• ピアノの伴奏は力強いオクターブ進行で、チェロを支えながら対話的に進行。

第2主題(小節40~58):抒情的で歌うような旋律。ピアノが旋律を先導し、チェロがその後を模倣。

• 属調のハ長調で提示され、力強い第1主題とのコントラストを生み出しています。


展開部

• 主題動機が分解され、断片化された形で扱われます。転調が頻繁に行われ、楽曲に緊張感が加わります。

• 対位法的処理が顕著で、ピアノとチェロの掛け合いが複雑に展開。


再現部

• 第1主題が主調(ヘ長調)で再現されますが、伴奏形が変化して新たな印象を与えます。

• 第2主題も主調に移され、全体の統一感を高めます。


終結部

• コーダで第1主題が再登場し、堂々とした締めくくりを迎えます。


第2楽章:Adagio affettuoso

調性:ヘ短調

形式:三部形式(A-B-A’)


Aセクション

• チェロが高音域で静かに歌い始めます。旋律は抒情的で、装飾音や半音階的進行が深い感情を表現。

• ピアノの伴奏は和声的支えとして機能し、全体の透明感を保っています。


Bセクション

• 調性が一時的に変化(変イ長調など)し、楽曲の雰囲気が一変します。

• チェロとピアノが対等に対話を展開し、緊張感を高めます。


A’セクション

• 再びヘ短調に戻り、主題が変化を伴って再現されます。

• 繊細なフレーズとともに静かに終わります。


第3楽章:Allegro passionato

調性:ヘ短調 → ヘ長調

形式:スケルツォ形式


Aセクション

• 劇的で力強い主題が提示されます。チェロとピアノが交互に主題を扱い、スケルツォらしい活力に満ちた音楽が展開されます。


トリオ

• ト長調に転調し、静けさと抒情性が増します。チェロの歌うような旋律が特徴的。


再現部

• Aセクションが再現されますが、装飾やダイナミクスの変化によって新たな表現が加わります。


第4楽章:Allegro molto

調性:ヘ長調

形式:ロンド形式


主題

• 明るく快活な旋律がチェロによって提示されます。

• ピアノが伴奏ではなく旋律の一部を引き継ぐ形で、両者の対話が密に行われます。


エピソード

• 中間部では一時的に調性が揺らぎ、穏やかなエピソードが挿入されます。

• ロンド形式特有の反復が楽曲全体を統一しています。


コーダ

• 最後に主題が堂々と再現され、ヘ長調の輝かしい終結を迎えます。


3. 音楽的特徴と分析


主題労作

• 動機の反復や拡大・縮小が随所に現れ、全楽章の統一感を高めています。

• 特に第1楽章と第4楽章での動機展開は、ブラームスの創作技法の精華といえます。


オーケストラ的響き

• ピアノパートが時にオーケストラのように重厚な和声を提供し、チェロの旋律を引き立てると同時に対等な役割を果たしています。


和声進行

• 機能和声に基づきつつ、半音階的進行や遠隔調への転調が効果的に用いられています。

• 特に第2楽章では、調性の曖昧さが情感豊かな雰囲気を生み出しています。


4. 評価と影響

• 第1番と比較して、よりダイナミックでドラマティックな性格を持つこのソナタは、ブラームスの円熟期の傑作とされています。

• チェロとピアノが対等な役割を果たす構成は、後の室内楽作品にも影響を与えました。

• 現在でもチェロソナタのレパートリーにおける最高峰の一つとして評価されています。


 
 
 

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