
解説シリーズ【スメタナ:モルダウ】
- 乾 将万(Inui Masakazu)
- 1月27日
- 読了時間: 2分
スメタナ「モルダウ(連作交響詩《わが祖国》より)」
1. 作曲の背景
連作交響詩《わが祖国》 (Má vlast)
ベドルジハ・スメタナ(Bedřich Smetana, 1824–1884)はチェコ国民楽派を代表する作曲家の一人であり、連作交響詩《わが祖国》(全6曲)は彼の傑作として知られます。「モルダウ(チェコ語ではヴルタヴァ / Vltava)」はその第2曲であり、1874〜1875年頃に作曲されました。スメタナは当時、深刻な難聴に苦しんでいましたが、祖国への愛や民族的誇りを強く打ち出したこの大作を書き上げています。
タイトルの由来
「モルダウ」はドイツ語での呼称で、チェコ語での川の名前は「ヴルタヴァ」です。チェコを代表する大河であり、プラハの街を貫流することで知られます。
2. 楽曲の構成と特徴
1. 情景描写としての構成
• 川の源流から始まり、小川が合流して大河へと成長し、やがてプラハを抜けてエルベ川へ流れ込むまでの様子が音楽的に描かれています。
2. 序奏部:水のせせらぎ
• フルートとクラリネットの細かなアルペッジョが、湧き出る小川をイメージさせます。静かに始まりながらも次第にスケールが拡大していく様子が巧みに表現されます。
3. メインテーマ:モルダウの旋律
• チェコ民謡に基づくとも言われる有名な旋律がオーケストラで堂々と展開され、明るく雄大な印象を与えます。
4. 中間部:狩りの場面・農民の結婚式
• ホルンやトランペットが狩りの号砲を思わせるメロディを奏でたり、弦楽器が舞曲風の動機を取り入れたりと、川沿いの生活を描写するエピソードが次々に登場します。
5. 夜の場面からプラハへ
• 川面に映える月の光のように静かな場面が挟まれた後、再び壮大な主題が現れ、プラハの街へと向かう壮麗な展開をみせます。
6. 終結部:エルベ川への流れ
• 盛り上がりとともに曲は大団円を迎えますが、最後は静かに消えてゆくような余韻を残し、祖国への愛が深く感じられます。
3. 楽曲の意義と評価
• チェコ国民楽派を代表する一曲
「モルダウ」はスメタナ自身の祖国愛や民族意識が込められており、チェコ国民にとって特別な意味を持つ音楽として親しまれています。
• オーケストレーションと情景描写
巧みな管弦楽法によって川の流れや自然、民衆の生活を具体的に感じさせる描写力が評価され、標題音楽の傑作の一つに数えられます。
• 世界的な人気
チェコ外の国々でも、スメタナの名前を広めた作品であり、オーケストラの演奏会での人気曲として定着しています。躍動的かつ抒情性に富んだ名曲であり、入門者から玄人まで幅広く愛されています。

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