1. 初見に強くなるための基本的な考え方
1. 視覚情報の瞬時処理
• 楽譜を見た瞬間に「音名・リズム・指番号・和音構成」などを脳内で処理できる必要があります。
• 初心者ほど「一音ずつ丁寧に読む」段階ですが、徐々に「塊(かたまり)として見る」イメージに移行していくとスピードが上がります。
2. 事前の楽曲構造把握
• いきなり弾く前に、曲の拍子・調性・難所となりそうな箇所(♯や♭の多い部分、リズムの複雑な部分)をざっと確認するだけで、初見精度が格段に上がります。
3. 演奏の簡略化と優先度
• 初見時には「まずは曲の流れを止めずに通す」ことが最優先。
• 慣れない和音やパッセージがあれば、初見段階は割愛・簡略化して進み、後から補うやり方も有効です。
4. 段階的な負荷設定
• 難易度に合わない楽譜を無理に初見すると、ストレスだけが増して上達は難しくなります。
• 自分のレベル+α程度の楽譜を継続的に使うのが大切です。
2. レベル別トレーニングプラン
【A】「バイエル終了程度」(初級レベル)
A-1. 取り組むべき教材と練習曲選び
• 教材例
1. バイエル後半〜ブルグミュラー25の練習曲 前半レベル
2. 簡易アレンジのポピュラー曲集、子どものやさしいクラシック曲集
• 選曲のポイント
• 音域が広すぎず、難易度が均一な曲。
• 手が大きく広がらない(和音が簡単)もの。
• ♭♯が多くなく、調号が多くて2つ程度(例:D major, B♭ major)ぐらいまで。
A-2. トレーニング方法
1. 片手ずつ予習
• 初級者は両手同時の譜読みが苦手な場合が多いため、まず右手→左手の順でリズムや音名、指番号をざっと確認し、それぞれ弾けるようになってから両手を合わせる。
2. 曲の構造を5秒で把握
• 楽譜を開いたら1〜2小節の導入部、拍子と調号を見て「これは4拍子のG majorか」と素早く理解する。
• 難所となりそうな黒鍵の多い箇所がないかもチェック。
3. リズム打ち & スタッカート唱
• 初見で止まりがちなのはリズムの混乱によるケースが多いため、弾く前に手拍子や口でリズムを言ってみる。
• “ター、ター、タッタ…”など簡単に声に出して確認すると、指が追いつきやすくなる。
4. ハミング or 音名唱
• 右手メロディを“ドレミ…”と歌う or ハミングすることで、頭の中である程度音程感を確保。合っているかを耳で確認しながら指を動かすとミスを減らせる。
A-3. 具体的な練習プラン
• 週3回以上、1回あたり5〜10分程度の「初見コーナー」
• 1日に全レッスン時間のうち、短時間でも初見だけを集中する時間を作る。
• 1回につき1〜2曲の新しい楽譜を選ぶ(24小節程度の短い曲が目安)。
• 簡易アレンジの曲を両手で最後まで弾く
• フルに弾き切れなくても、最初は止まらずに通す練習が重要。最終的にミスは多くてもOK。
• 後から復習
• 間違いが多かった部分は後からゆっくり直す。初見時は途中で立ち止まらない習慣を徹底する。
【B】「ツェルニー30番〜40番学習中」(中級程度)
B-1. 取り組むべき教材と練習曲選び
• 教材例
1. ツェルニー30番・40番自体の未学習曲(初見でざっと弾いてみる)
2. ソナチネ〜ソナタ(モーツァルト、ハイドンなど)の楽章単位の抜粋
3. 小品集(シューマン、メンデルスゾーン、ドビュッシーの簡単な前奏曲など)
• 選曲のポイント
• ある程度スケールやアルペジオの活用がある。
• 左手の動きが単純なアルベジオ伴奏だけでなく、リズムや和音進行が変化するもの。
• 調性が2〜3つ♭♯がつくもの(E♭ major、A major、E majorなど)に挑戦して調性慣れする。
B-2. トレーニング方法
1. 見開き1ページをすべて初見
• ツェルニーの練習曲やソナチネなど、1〜2ページ程度のセクションを通して止まらずに弾き切る。
• 難所があってもスルーまたは簡略化して弾き続ける。
2. 拍頭をキープ
• 多少の指ミスや音抜けがあっても、拍頭(小節の頭)だけは合わせる意識。止まらない初見に繋がる。
3. 和音・コード進行の把握
• 中級者になるとコードネームや和声進行をざっくり把握できると初見が格段に楽になる。
• 「ここはⅠ→Ⅴ→Ⅰの進行だな」「ここで転調が起こっている」と意識するだけで指の動きが見通しやすくなる。
4. 目線を先に走らせる
• 今弾いている音の先を常に1小節ほど先読みする習慣をつける。できればさらに2〜3拍先を見る余裕が理想。
B-3. 具体的な練習プラン
• 週3〜4回、1回15分程度の「初見強化タイム」
• 例:ツェルニー30番の未学習エチュード or ソナチネ1章の途中など、1回あたり2〜3曲を弾く。
• ジャンルや時代を混ぜる
• バロック作品(バッハのインヴェンションなど)からロマン派、近現代の小品などをまんべんなく初見しておくと、読譜力の幅が広がる。
• メトロノーム活用
• 「♩=60」「♩=80」といったゆっくり目のテンポを設定し、多少の音ミスは無視してでも拍をキープする。
• 録音して振り返り
• 初見のときどこで止まったか、どこで拍が乱れたかを客観的に把握するため、スマホなどで録音を残しておく。
【C】「ショパンエチュード以上の上級者」(上級レベル)
C-1. 取り組むべき教材と練習曲選び
• 教材例
1. ショパンエチュードやバラード、スケルツォの未習曲(難曲の一部抜粋だけでもOK)
2. リスト、ラヴェル、プロコフィエフ、スクリャービンなどの近現代〜ロマン後期のエチュード
3. オーケストラスコアのピアノリダクション、室内楽作品のピアノパートなど
• 選曲のポイント
• アンサンブル譜を初見するなど、多声部を整理する力が必要なもの。
• シンコペーションや飛躍音形、複雑なリズムが絡むものなど、「初見殺し」といわれる要素も含む。
• 変拍子や転調頻度の高い近現代作品に挑むとさらに読譜力アップ。
C-2. トレーニング方法
1. ハーモニー(和声)の大局把握
• 上級になると、単に音を追うだけでは限界があるため、小節単位や段落単位で和音・コード進行を大づかみに覚えると効率が上がる。
• 和音をかき鳴らして「このあたりで転調がある」「この5〜6小節はほぼ同じコード進行」など俯瞰的に見る。
2. 分散和音の処理
• リストやショパンでよく見られる「超絶アルペジオ」や「半音階的装飾パッセージ」は、とりあえず“形”をシンプル化して通す。
• 後から細部を詰める形でも、初見演奏時には大枠の流れを追うことが最優先。
3. リズムの精度保持
• 複雑なリズムほど、拍頭でしっかり進行の軸を保つのが肝。
• 多少の音抜けや装飾の簡略化は許容して、拍やフレーズの段階で破綻しないことを最重視。
4. オーケストラスコアや伴奏譜の初見
• 上級者はソロ曲だけでなく、歌曲や器楽伴奏、室内楽パートの初見に取り組むと声部配置の瞬時理解が身につく。パート譜の省略などの臨機応変さを養える。
C-3. 具体的な練習プラン
• 週4〜5回、1回20〜30分程度の「高度初見トレーニング」
• ショパンやリスト、近現代作曲家の短いエチュード、あるいは交響曲のピアノリダクション冒頭部分など。
• 予備知識を素早く仕入れてから弾く
• 作曲家の様式、曲の形式(ソナタ形式か、ロンド形式か)をパッと確認しておく。
• 部分的に和音をひと通り押さえてみて「ここは減七の和音が連続」「ここは左手の大きな跳躍がある」と俯瞰する。
• 省略と復元を繰り返す
• 一度目は細かい音型やアーティキュレーションを簡略化して通す。
• 二度目で合間に追加情報(装飾音やオクターブ連続)を加え、完成度を上げていく。
• 速いテンポでも崩れないリズム感
• 上級者はテンポを落として弾く癖がつきすぎると、本来の速さで初見の意味が薄れる。適宜標準テンポに近い速度でも試してみる。
3. レベルを超えて共通するポイント
1. 継続が命
• 初見力は一朝一夕には身につきません。常に新しい楽譜に触れる習慣が大事。
2. 自分に合った教材バリエーション
• 1つの教本だけでなく、ポップスやクラシック、ジャズの簡単アレンジなど、興味を惹かれるものを幅広く取り入れるほうが飽きにくい。
3. 音名よりも音の位置を塊で捉える
• 初級段階では「ド・レ・ミ」の読み方を大切にしつつ、中級〜上級では「和音形やパターン」を視覚的に捉え、瞬時に鍵盤上へ移すスキルが必要。
4. 適度な緊張感をもって弾く
• 初見の際は“ちょっとした本番”くらいの意気込みで臨むと集中力が高まり、実践的な能力が向上しやすい。
4. まとめ
• バイエル終了程度(初級)
• 片手ずつ丁寧に譜読みし、短くて優しめの曲を“止まらずに通す”練習から始める。
• リズムや音程感を声や手拍子でサポートしながら、見慣れない楽譜でも慣れることを最優先。
• ツェルニー30番〜40番(中級)
• 調号・和音進行をざっくり把握し、メトロノームでの拍キープを徹底。
• 様々な時代・ジャンルの小品で初見経験を積み、幅広いリズム・音域・調性に慣れる。
• ショパンエチュード以上(上級)
• コードや和声構造を事前にざっと把握し、複雑なパッセージは簡略化しながらもリズムと流れを優先。
• 器楽伴奏やオーケストラスコアのリダクションにも挑戦して、瞬時に多声部を処理するスキルを磨く。
いずれのレベルでも「週に複数回の初見時間を確保し、常に新しい譜面に触れる」ことが最重要です。最初から完璧に弾こうとせず、**“多少のミスはあっても曲を止めない”**姿勢で取り組むと、本番やアンサンブルでも活きる初見力が着実に身につきます。各自のペースでぜひチャレンジしてみてください。
Comments